「奈良の古寺を訪ねる旅」を催行した。
昨年12月、兵藤会長からのお声掛けでスタートした企画である。
3月17日朝現地集合、当日夜現地解散としたので、団体行動は1日のみである。大方の参加者は16日に鎌倉を発ち、18日に帰るという日程である。
日本仏教は、一口に十三宗五十六派と言ったが、その十三の中で三つは、南都六宗のうちに今に残る「法相宗」「華厳宗」「律宗」である。今回の旅は、そのすべての大本山・総本山を1日で訪ねるという、忙しいが贅沢な行程である。しかも、兵藤会長の長年の奈良古寺の高僧との親交から、各寺から特別な配慮をいただいているので、参加者の期待も大きい。
16日夜は、希望者11名で夕食となった。小町通りを思わせる「東向商店街」の居酒屋である。
夕食風景 ( 写真はすべてクリックすると拡大します)
翌17日9時、集合場所の近鉄奈良駅の行基像前に全員22名が揃った。
集合場所の近鉄奈良駅行基像前
まず向かったのは、東大寺(華厳宗大本山)。聖武天皇が全国に建立した60余の国分寺の中心となる、「総国分寺」と位置付けられた寺である。案内されたのは大仏殿内上層部。大仏の膝に触れることができるほどの近距離である。天皇は、国民が広く造像に携わることを望み、一握りの土を持ち運ぶことでも良しとしたそうだ。当時の国内推定人口600万人と言われる中で、延260万人が参加したという。
左:東大寺南大門前 右:同大仏殿前
次いで向かったのは興福寺(法相宗大本山)。まず、守谷副貫首から抹茶の接待をいただいた。同師と兵藤会長とは30年来のお付き合いだそうだ。
法相宗は、玄奘三蔵(三蔵法師)から直接「唯識」を学んだ道昭が日本に持ち帰ったことから始まった。往時興福寺の寺領は広大で、大和国の荘園のほとんどを有して、事実上大和国の国主と称されたほどである。「南都北嶺」という言葉がその勢力を象徴する。
中金堂裏の仮金堂に、本尊他あまたの国宝仏とともに「阿修羅像」が安置されている。数年前、上野の美術館で多数の入場者の肩越しに拝した時とは異空間の、静寂で荘厳な世界で諸仏を前にすると、心静まり、おのずとこうべを垂れることになる。
東金堂に安置された仏頭は、仏像の頭部だけだが国宝指定である。実物がこれほど大きいとは、写真では想像もしなかったことであった。
左:興福寺境内 右:守谷副貫首とともに
興福寺を辞して、近鉄奈良駅周辺で自由昼食ののち、午後はまず薬師寺(法相宗大本山)である。
およそ1,300年前の白鳳時代、天武天皇が皇后の病気平癒を祈り、藤原京に建立した。その後、平城京遷都に伴い、今の地に移されたという。
ご案内は、当寺の羅子・村上貞運師(早大東哲院卒)である。学生時代の愉快なエピソードなど交え、わかりやすく面白い話をするのは、高田好胤師以来の当寺の伝統かもしれない。
左:村上師から説明を受ける 右:村上師とともに
本日最後の訪問は、唐招提寺(律宗総本山)である。
ここでは、西山長老にお会いする予定が組まれていた。師は、西暦774年鑑真和上が来日し、のち唐招提寺を開いて以来連綿と続く当寺第88代住持。律宗の最高位にある師である。なかなか願っても会えない人でもある。
鑑真和上は、日本からの懇請を受け、海外渡航が禁止された当時、万難を乗り越え六度目にして来日に成功し、日本における授戒の制度を整えた。
金堂には、本尊・廬舎那仏を中心に、右に薬師如来左に千手観音が安置され、梵天・帝釈天、四天王像等国宝仏が取り囲む。その金堂前で、長老から鑑真和上や律宗のことなどうかがうと、日本仏教における和上の功績や唐招提寺のはたしてきた意味を思うのである。
左:西山長老から直に説法を受ける 右:同師とともに
夕刻6時からは稲門会奈良県支部との交流会である。地元奈良交通の谷口会長(交友)のご厚意で会場が設営された。奈良からは13名、当会からは20名の参加で豪華な宴席が張られた。参加者全員の一言づつの挨拶で、会場はさらに打ち解け、旧知の友と語り合うような雰囲気となった。
交流会風景
終盤はやはり都の西北である。
谷口会長をはじめ、この場を設けていただいた奈良県支部の方々に感謝しつつ、お開きになった。
18日は、希望者のみの奈良市内ミニツアー。
案内は「なら・観光ボランティアガイドの会」の中山さん(当会高橋健治さんのご紹介)である。コースは春日大社、鹿の病院、元興寺、猿沢の池あたりである。
午前のみの短い散策ではあったが、全国春日神社の総本社の春日大社では、中臣氏から始まる社歴や伝承に触れ、また梅の名所を歩き、さらに昔ながらの面影を残す奈良町とそこに残る元興寺等を訪れ、駆け足ながらも奈良訪問の総仕上げにふさわしいひと時であった。
春日大社 元興寺極楽房(国宝) 猿沢の池(興福寺五重塔を望む)
(文:小林敏二、写真:横松宗治+小林)
17日、筆者が5時起きして見た平城京跡日の出の大極殿(復元)